ハッチョウトンボ
久保川流域の畦の斜面などには、カヤツリグサやホシクサ類、モウセンゴケなどが生育する草丈の低い貧栄養湿地が各所にみられます。このような場所でじっくり観察してみると、とても小さな赤トンボをみつけることがあります。これがハッチョウトンボです。
体長は♂♀共に2cm程度しかなく、不均翅亜目(ヤンマ科やトンボ科などのグループ)の中では、日本最小の種類で、世界的にも最小の部類に入ります。成熟した♂は全身赤くなるのでまだ判りやすいですが、♀は茶色がかった地味な体色をしているので、一見するとアブやハチなどの仲間に間違えてしまうほどです。
時に休耕田にもみられることがありますが、肥料などの養分が多いためか、すぐに草丈の高い植物が茂ってしまうために、短期間でいなくなってしまうことが多いようです。
執筆:須田真一/写真:桶田太一
トラフトンボ
5月中旬頃にため池へ行くと、水面の低い位置を活発に飛び回る茶色っぽい中型のトンボを見ることがあります。これがトラフトンボ(エゾトンボ科)です。水のきれいな水草の豊かな水辺を好むため、水質汚染などの環境変化によって全国的に生息地が減ってきていますが、久保川流域のため池ではまだ各所でみることができます。岩手県は分布の北限でもあり、北上川流域の低地に沿って分布しているようです。
メスの産卵はちょっと変わっています。水辺の草に止まった状態で腹端に卵塊を作り、十分な大きさになると腹端を水面につけて引っ張るように飛びます。そうすると卵を包んでいるゼラチン状のかたまりが長くのび、まるでヒキガエルの卵のような卵ひもが残ります。慣れてくるとこれを探すことによっても、生息を確認することができます。
執筆:須田真一/写真:桶田太一
コサナエ
久保川流域のため池には多種多様なトンボがみられます。その中で、春先もっとも早く羽化するのがコサナエ(サナエトンボ科)です。
日に日に木々の新緑が濃くなる4月中旬から羽化がみられ、ゴールデンウイークの頃が最盛期です。特に風の弱い晴れた日の午前中には、数多くの個体が一斉に羽化することがあります。コサナエの羽化は岸辺でもよくみられますが、そのころからやっと水面に浮かびはじめたオヒルムシロなどの浮葉の上でもよく羽化しています。
羽化した成虫はしばらくの間、林縁などで過ごした後、水辺に戻って生殖活動を行います。久保川流域では、5月中旬ころから6月にかけて各地のため池でその姿をよく見かけます。6月も半ばになると数が減り7月にはほとんど見られなくなります。
執筆:須田真一/写真:桶田太一